世界は必然である。
誰かがいった言葉。
その誰かが誰か分からなくとも、
世界は必然である。
スナと魔王とケンカと不貞寝
「スぅナぁ〜〜何でそういっつも対人関係グダグダかなぁ?」
「別に。普通でしょ。」
「いやぁ〜、あのね〜?ヤーさんに魔王さん紹介したらヤーさんが魔王さんに掴みかかるのわかっているでしょお?」
「だからって数少ない友人丸焼きにされたらキレる。」
えー・・・こんにちは。アパートメント「夜」の管理人、トンです。今、僕はアパート住人のスナと魔王さんのケンカの仲裁中です。
アパートメント内の良好な人間関係の維持も管理人の仕事の一部ですからね!
えー、詳しく言いますと、
スナには数は少ないですが友人が居ます。その友人というのが、暴力団の組の人だったり、暴走族の総長だったり、と、まともな友人が居ません。(まぁその中に僕も居るらしいのですが・・・。)
その友人のひとりであるヤクザさん(何故か悪魔嫌い)に、魔王さんが隣に来たという話をしたらしいのです。するとその友人は魔王さんに会ってみたいと言い出し、スナが了承したらしいのです。
で、会わせてみたらそのヤーさんが魔王さんに掴みかかり、驚いた魔王さんが防衛反応で反射的に丸焼きに。ヤーさんは全治1ヶ月程度で命に別状は無かったらしいです。が、それにキレたスナは魔王さんを言葉攻めにし、そして魔王さんを殴りました(ゴルフバットで)。
魔王さんは怒っているわけでもなく、逆に治療費も慰謝料も払うと言っているし、ヤーさんも治療費だけでも良いと言っています。
しかし、スナが断固として許さない。何故だ。むしろ根本原因でもあるかもしれない彼女は何故そう頑ななのだ。分からぬ。分からぬぞ。
「だって、相手は反省心ゼロじゃないか。フゥ(ヤーさんのあだ名)が可愛そうだよ。」
「あのね、この世界に心なんか要らないって説いているのはスナでしょう?」
「要らないけど、あるもの使わないのは勿体無いじゃないか。」
「えー?君はわがままだなぁ。」
「むしろ正論だろ。」
「どっから来るの?その自信…。」
可愛くなくて悪いね。
トンはああ言ったが、こちらは数少ない友人失うかもしれないのだ。丸焼きにしなくたって良かったのではないか。殴る程度ならまだ良かったのに。
「でもねスナ。悪魔嫌いのヤーさんと魔王さん会わせた君も悪いよ?それに殴っちゃったしね?」
「善い悪いなんて、意味が無い事は分かっているだろう。」
「でもスナ、君はすごく感情的だ。悪魔と人の心を両方持っている。それはとても素晴らしい事だが、危うい事でもあると思う」
トンが言っている事は良く分からない。私は感情論否定派だ。肯定派のトンと話が合わないのは良くある。
「善意のある悪魔。不安定。気紛れ。僕らにだって飽きてどっかへ飛んでいかないか心配なときがあるくらいだ。しかし君は人間に紛れて人間として生きてきた。いや、君は悪意のある人間なのかな。だからここに居るのかもしれない。
それは素晴らしい事だよ。スナ、でもすごく危うい。僕は君の善意が恐ろしくなる。」
魔王サンの掌から炎が生まれたときのスナの眼が変わった。君は本能でフゥが危ないと解ったのだろう。
『触るな!』
青く淡い色の焔が煌く。炎がフゥの素肌を嘗めたかと思うと鋭い叫び声が聞こえた。
『闇に紛れしモノ、消えよ!』
焔は消えた。フゥの痛みと苦しみに悶える声と焼け焦げた臭いを残して。
『わ…ね、ねぇフゥ…!大丈夫?フゥ?!聞こえている!?』
『…トン…ウルサイ…』
スナは魔王を睨むと咬み付くように叫んだ。
『消えろ!穢れた者め!貴様など魔王では無い!』
魔王はスナが焔を消した事よりスナが魔王に暴言を吐いた事に驚いたようだった。
魔王は怪訝な顔をして言った。
『穢れた者…?それは君の事じゃないのか?』
ブチッ
『消えろ!』
スナは叫ぶとゴルフバットを振り上げ、魔王を殴ろうとした。
ゴルフバットは熔けてしまった。
僕の使っていたお気に入りの物だったので残念だったがまた買えば良い。
警察沙汰になるよりマシだもの。
「スナ?聞いている?」
「…聞いているよ。で?何が不満だ?私に何をしろと?」
そう聞かれると困る。
「だからね。僕のアパートメントでイザコザがあると僕として不満なのね。」
スナは頷く。
「だから、魔王サンとは仲良くじゃなくても良いからもうイザコザが無い様にして欲しいの。」
「頼まれなくても、もうしないよ。あんなこと。」
スナは詰まらなそうに窓に止まったコマドリを見つめている。
「あんなこと?」
「何の利益にもならないこと。」
そうだろうか。利益にはならなかっただろうか。少なくともスナがあの焔を消さなければフゥは死んでいたかもしれない。
実際フゥはスナに感謝しているようだった。魔王に掴みかかるという愚かな行動に反省してもいる様だが。
「利益にならない?」
「ジジィから教わった事なんてさっさと忘れるんだった。」
「…そうかな…。
スナ…。」
「何?」
「やっぱり君はすごく感情的だよ。」
スナはずっと黙っていた。
僕はそんなスナをずっと見つめていた。