『思い立ったら充実生活!アパートメント入居者募集!月1万ゲルで貸します!一部屋2LDK,建設から1年目.TEL●●○▽‐■◆◇』
そんな広告が悪魔の目に止まった。
このアパートメントの管理人はきっと別次元からきたのだろうという事にして、悪魔は電話をかける。
そのアパートメントの管理人と仮契約をし、悪魔は引越しの用意をする。
その日、人間は管理人が異様にハイテンションだった事に哀れみを感じた。
新しい入居者が出来るかもしれないという事だった。
悪魔だったような気がする。
別に自分には関係ない。
ただ、哀れみを感じたことに、損だったとぼんやりと思った。
入居者が来る当日、何故か人間は管理人室に連れて行かれた。
管理人が緊張するからという事だった。
何故このアパートメントに住んでいるのだろうと少し後悔した。
その入居者、悪魔を見た瞬間、人間と管理人は凍りついた。
何せ、その悪魔、魔界でも人間界でも有名中の有名。
世界の支配者と呼ばれる魔王だったものだから。
人間は管理人を小突いた。
「オイ、新しい入居者だぞ。良かったじゃないか。」
管理人はハッとすると、誰にも負けない営業スマイルで接待しだした。
人間は悪魔をまじまじと見た。
管理人のテンションについていけていないようだがまともそうではある。
瞳の色が鉛色をしているのが印象に残った。
「その管理人、気が狂っているんですよ。」
管理人の話を聞いていると、ぼんやりとした人間が口を挟んだ。
その人間は私を見ているようでまったく見ていなかった。心ここにあらずといったように私と自分との中空を見ながら続けた。
「だから、嫌わないでやって下さいね。」
それはあくまで棒読みで。
紡ぎ出した言葉も、支離滅裂だ。
その人間はじゃあと言うと管理人室から出て行った。
管理人が何か非難の声を上げたようだった。
私はその人間を実に下界の人間らしい人間だと感じた。資料にあがってくる人間の特徴そのままだったからだ。
「あの人は悪魔と人間のクオーターで、貴方のお隣さんに当たる人ですよ。奇麗な人でしょう?」
確かに、この管理人はあの人間が言ったとおり狂っているかもしれない。
下界の人間というのはこれが普通ではないのだから。
人間はいつからあんなに無感情だったろうか。
何も見ていないのに何もかも知っているような口ぶりが妙に印象的だった。
「あ、僕、管理人の名前はトンと言うデス。呼び方は何でも良いです〜。アホはやめてくださいね。で、あの人間さんの名前はスナ。荷物はもう運んでおきましたから。」
「分かった…。」
魔王の第一印象は“魔王じゃない。”だった。
スナは気が付かなかったようだが。
確かにこの悪魔は「魔王」と呼ばれる悪魔だ。
だが、“魔王”には見えなかった。
強さだとか、風格だとかはあるのに、威厳が無い。
まったく、微塵も、一寸も、全然、無い。
このアパートメントで隠居か?とも思ったが、仕事は山のようにあるはずだ。
スナと魔王を引き合わせたのは失敗だったか、何だか両方とも好印象みたいだ。
何だか置いてきぼり食らったみたいでヤな感じだった。
それにしても、好き嫌いがない世界っていうのは面白くない。
でも
魔王がこのアパートメントに来てから3日後の、スナと魔王のケンカは面白かった。
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