化 物 の 憂 鬱 Depression of an apparition†


 

手を差し伸べてください

 

僕を助けてください

 

僕を哀れんでくれるのなら

 

喜んで慈悲を乞いましょう

 

 

 

 

もう疲れちゃったの――。
待つの。
…だって、いくら待ったって無駄だもの。
もう、疲れちゃったの。
もう、信じたくないの。
もう、泣きたくないの。

 

ねぇ、ディア。母さんみたくなっちゃダメよ。

 

――どういういみ?   またあえたら、おしえてくれるかな?

 

 

カラスの鳴くころ、僕は目を覚ます。
普通の村人だったら、怠け者だとか変人だとか言うのだろう。

でも僕にはこれが日常で、僕の普通というものだ。
僕はベッドのシーツを跳ね除け、ベッドから抜け出す。
いつの間にか起きていたクラレに挨拶をし、夕方の朝食を作り出す。
食事を終えたら昨日やり残した父さんの部屋の掃除を始める。

 

「ドウスレバ、コンナヘヤニデキルンダ?」

 

「ほんだなにかたづけなかったら。」

 

たまに気になる本を見つけると、別に置いて自分の部屋に持っていく。
父さんの本は『怪奇現象リリカ』(多分少女文庫)だの『悪質詐欺を避ける方法』(必要ない)だの『世界豆知識』(2ヶ国しかない)だの他にも読めない文字の本であったり、とにかく変な本ばかりだ。
1時間程度片付けていくと、大きく、古ぼけた布地のカバーの掛かった本が無造作に転がっていた。
数々の本に埋まっていたわりには埃がかかっていた。色も褪せ、タイトルも読めない。僕は埃を叩くと本を開いた。
内表紙に、言葉が綴ってあった。

 

この本を見るときには僕はどうしているだろう。
忘れているだろうか。
多分忘れているのだろう。
それはとても哀しいことだけど、僕だから仕方ないかもしれない。
ごめんね■■■
僕は      
                              』

 

正真正銘父さんの字だった。分かりやすい癖字で、身内しか読めなさそうな。
ある意味究極の秘密保持だった、父さんの字。
文章からして十数年は昔に書いたものだろう。辛うじて読める場所も少ないし、書きかけのようにも見える。
意味は分からないが、忘れてはいけない何かを誰かに伝えたかったのだろうか。
僕は何も考えずページを捲った。
そこには古めの写真がところ狭しと貼り付けられていた。

 

アルバムだった。
1ページ目には癖毛の少年が無表情にこちらを見ていたり、空を見上げたりした写真、全て少年は何か言いたげな目でこちらを見ている。
そして写真の隅には一言ずつ何か言葉が書かれている。『つまらない』だとか『空が青い』だとか他愛の無い言葉。

 

さらにページをめくると、3枚、今度は少年はもう一人、少年より少し年上かと思われる青年と一緒に写っていた。
これは面影があるので分かった。

丘の上の教会の神父だ。
変わり者の苦労人と呼ばれ、悪魔と犬と人形と通称魔女と一緒に暮らしている。
僕の伯父である神父だ。
青年は微笑んでいた。少年は無表情とは言えないがまだ何か言いたげな目をしていた。
写真には『神父志望』とか『ごめんね』(多分神父の字だ)だとか書いてあった。
この少年は父さんだろうか。
でも、今の父さんは良く言えば明るいし元気だしユニークな人で、表情豊かな男だ。
まぁ悪く言えばバカっぽいだけのダメ男なのだが…。

 

次のページへ捲ると、今度はさっきの青年が居なくなって、少年が少し成長した写真が2枚だけあった。
15.6歳といったところだろう。
草原でセミロングの少女と並んでぎこちなく笑っている少年の写真。
少女は影も闇も屈託も無く微笑んでいた。
もうひとつは、少女と少年が手をつないで空を見上げている写真。
少年の何か言いたげな目は、息を潜めているように見えた。
2枚とも同じ一言、『苦手』とだけ書いてあった。

 

僕が次のページを捲ろうとした瞬間、玄関のチャイムが鳴った。

 

ピンポーン…ピンポーン…

 

「はーい。」

僕は返事をして玄関に向かう。この家に来るのは、神父か村長かフィオ・スディか近所の双子か物好きくらいだ。
この時間ならフィオか双子だろう。

 

ピンポーンピンポーンピンポーン…

 

チャイムは鳴り続ける。

「いまでます」

僕は玄関の扉を開けた。
そこに立っていたのはは、フィオでも双子でも無く、物好きな村人でもなかった。

 

 

 

「…どうしたの…。」

 

 

 

何故ここに居るのか分からない。
拍子抜けとはこういうこと。

 

 

つづく



さぁ、どうしよう。この続き考えてないよ。やばーい。短っ。 だんだん短さが一定してきた?

2006.6.26. Mon

20070813だいぶ文章訂正

 

 

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送