化 物 の 憂 鬱_


きっと僕等はこの世界の10万分の1も解っていないのだろう

だから

解るために僕は

この世界を総て創り直した――

 

 

「で?」

 

「でって?」

 

「ぼくをつれさるのじゃないの?」

 

 釣り男、基、ペデストリアンはキョトンとした顔をした。
はっきり言ってムカツク。
慌てているのは僕だけか。
僕もそこまでは慌てて居ないけれど。

 

 「…。どうして?」

 

「はぁ…!?」

 

ペデストリアンは意味不明だといわんばかりの顔をしている。

 

……良く考えてみればそうだ。
あれは童謡なのだ。
本当のことではない確立の方が高い。
たまたまこの人がペデストリアンという名前なのかもしれない。
犯罪者や化物や妖精の名前をつけられた人だって居る。
現にパン屋の主人の名前はポチョムキン(殺人鬼の名前)だし、肉屋はノーム(土の妖精の名前)だし、元村長の名前はサタン(大悪魔の名前)だ。
他にも如何わしい名前の人は沢山居る。

 

 

ペデストリアンなんて元の意味は「歩行者」だ。
名前を付ける人…珍しい感性の人だろうけど…が居るかもしれない。

 

良く考えれば失礼な事言ったものだ。

 

 「…すいません。
 かんちがいみたいです。」

 

 「ふーん…珍しい勘違いだな。
 はた迷惑だね。
 面白いけど。」

 

ペデストリアンという人は小首をかしげて言った。
取り敢えず僕はバケツを取り返そうと口を開きかけた。
その瞬間を見計らったようにその人は質問をまた始めた。

 

 「そういえば、質問の答えは?
 お前は何故1人で居るのだ?」

 

 「べつに、あなたにはかんけいないことじゃないですか。
 それよりバケツかえしてくださいよ。」

 

 「関係ない?
 俺は朝っぱらから子供に水汲みに行かせる親が酷く興味深いのだが?」

 


興味深いから何だ。
どこかのオヤジと同じ事言うな。
他人なんてほうって置けば良いじゃないか。

 

 「きょうみぶかかったらなんでもきいていいのですか?」

 

 「そういうものだぞ?
 俺はそういう事じゃなくて、何故態々『独り』でココに来たのかを聞いている。」

 

その場の空気が冷たくなった。
そんな気がした。

 

独りだから

 

 

何だって言う?

 

 

「…貴方も、独りでしょう…?」

 

 

その問いに、男は気取った風に僕を見下して、言った。

 

 

「そう見える?」

 

 

そうだ。
僕は独りだ。

 

 

あの白猫が「今は独りではない。」と言った時に、良く分からない感情を味わった事を覚えている。

 

 

母さんが出て行ったときに無感情に見送った事を覚えている。

 

 

この男は独りじゃない。

 

 

「独り」では無かった。

 

 

その場の空気でさえ、その場の全ての原子でさえ、あの男を認め、確認し、傍に「居る」。

 

 

僕は

 

 

「独り」だ。

 

 

独りで朝を向かえ、居ないはずの場所に居ないものを確認し、「独り」を確認する。
夜だけ現れる、僕の幻影を見て、独りでは無い錯覚を起こす。

 

 

そうだ。

 

 

僕は「独り」だ。

 

 

「で?お前は、何故『独り』でココに来た――?」

 

 

何故僕は

 

 

この男の言葉で

 

 

孤独を思い出さなければいけなかったのだろう。

 

 

夢から覚めなければ無かったのだろう。

 

 

今思えばそれは

 

 

兎が見え見えの罠に掛かるような事だったのだろう。

 

 

恐怖で怯え

 

 

必死に安楽の場所を見つけようとする

 

 

可哀想な

 

 

弱い獣の

 

 

性だったのだろうか――――…

 

 


20081108若干文章訂正

 


Copyright (C)ディライト All Right Reserved.
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送