_化 物 の 憂 鬱_
また懲りずにココに来たの?
バカだなぁ…
そういう所も好きだけどさ…
僕が寂しくなくて――――…
あの夜から2週間が経った。
あれから、いくら夜歩こうともあの化け猫には出会わなかったし、僕の家にも来なかった。
ねずみのクラレも無事だ。
食べられてない。
先日の事を例のボードゲーム相手の友人に話すと、不気味がって、もう夜歩き回るのはやめろと言われた。
ではいつ僕は外に出ればいいんだと聞いたら何か口の中で言っていたがすぐに諦めて、またボードゲームを始めた。
あの夜、朝に水汲みはやめようかとも考えた。
しかしいちいち毎日の日課を変えるのも面倒臭いので、やっぱり朝には川へ行っている。
だいたい、ペデストリアン〔―通行人―〕に攫われるなんてありえない。
知らない人が居れば警戒するのが普通だ。
そこまで馬鹿なやつがこの村に居るとも考えられない。
通り魔なんてするような狂人はこの村に居ないし、こんな田舎にそんなことしに来るような奴もいないだろう。
今、僕は久しぶりに本の整理をしている。
本棚は本の冊数には充分すぎるくらいあるのにその部屋には足の踏み場が無いほど本が散乱している。
僕が使っているわけじゃなかったが、流石に片付けないと腐界の森化してしまうとクラレが按じて、僕が片付けるように仕向けたのだ。「…どこから片付けようか?クラレ。」
「勝手ニシロヨ。」
片付けろと言ったのはクラレなのに。
この部屋を使っていたのは、僕の父だ。
父は自由奔放な人で、10年前に突然旅に出て、1年前に唐突に帰ってきたかと思うと2ヶ月もしないうちにまた旅に出てしまった。
こんな僕がこんな家でこんなことをする破目になった確信犯はあの人なのに。
まぁ自分が旅に出ている間に母が出て行ったのにショックを受けてか、流石に懲りて半年に一度は帰ってくると言っていた。
何を今更考えているのだろう。
僕も出て行ってしまうとでも思っているのだろうか。あの人は。床を埋め尽くしていた本が半分ほど片付いた頃には、朝日が昇りかかっていた。
「あぁ、クラレ、あさになる。
みずをくみにいってくるよ。」クラレはずっと父さんの机の上のライトの屋根の上にちょこんと座っていたが、僕をちらりと見て、窓に差し込んだ朝日を見ると走って何所かへ行ってしまった。
クラレも太陽は苦手らしい。空っぽになっている鉄製のバケツを2つ持って、僕は家から10分ほどの川まで歩いて行く。
いつもは人なんか一人も居なくて、鳥が囀る声しか聞こえない。その時間が一番眠いけど、一番好きな時間だった。
でも今日はいつもと違った。
男が居た。
川べりの大岩に、釣りをしながら煙草を吹かしてボォっとしている20代前半くらいの男。
見知らぬ男。村にこんな奴いただろうか。
こんな朝早くに釣りなどしても魚は皆眠っていると思うのだが…
ふいに、その釣り男(勝手に命名)が僕を見た。「あぁ…こんな早くに人が居るとは思わなかったな…おはよう。ボウヤ…」
「…おはようございます。」
あまり関わらずにさっさと水を汲んで帰ろう。
そう思っていたのに、釣り男は話しかけてきた。「こんな朝早くに、何故川に居るの?」
「みずを…くみに…。」
「へぇ…」
釣り男は一瞬キョトンとしたが、またボォっとし始めた。
僕は釣り男を気にしないように2つ目のバケツに水を汲もうとバケツを川の中へ入れた。
しかし持ち上げようとして手を滑らせ、バケツを落としてしまった。
バケツは流れていき、僕より少し下流に居た釣り男の釣竿の引っかかった。
しかし釣り男は気付いていないようだ。とことん釣りに来た理由を疑う。
仕様が無い。
話しかけないと水が汲めないし…。
こんな見知らぬ怪しい男に話しかけるとかものすごく嫌だが。
意を決して僕が釣り男に話しかけようとすると、釣り男は急に首を回して僕を見、いきなり訳の分からない事を聞き始めた。「君、名前は!?」
「へ?」
いきなりそんな事を聞かれても困る。
でも釣り男は僕に答えを要求するように見つめてくる。「…ディア、です…あの、つりざおにばけつが…」
「歳は!?いくつ?」
「…17さい、ですけど。
つりざおに、ばけつがひっかかってるんですけど…。」「家族は!?
何で大人は君に水汲みをさせるの!?」てんで僕の話を聞いてくれやしない。
「いまは、いません…けど…。
ぼく、ひとりだけだから、みずくみ、してるんです。
そのばけつ、ぼくのなんですけど!」それを聞くと釣り男は眉をひそめた。
「居ない?
一人?
聞いた話と違うぞ!?
アルは君の家には君とクラレってやつが居るってだけ言っていた!」もうバケツの事は諦めるしかなさそうだ。アルって誰だ。
そんなやつが何でクラレの事を知っているんだ?「クラレはただのはつかねずみですよ。
あかい。
アルってだれですか。」「アルはアルだ!
君は何で知らないんだ?
2週間前の夜、君は歩いていて、そのとき会ったやつの事を知らないって言うのか?
二十日鼠!
あいつめ!
嘘吐きやがったな!」「けのながい、しろねこにはあいましたけど?」
「そうさ!
それがアルさ!
嘘吐きの性悪化け猫だ!」釣り男はそのままブツブツと化け猫に対する悪態をついていたが、ウンザリとした顔の僕を見、銜えていたタバコを座っていた岩に擦り付けて火を消すと、また質問した。
「何でお前は一人で居るんだ?
ほかの家族は?
今は居ないって言ったよな?」何だか僕だけ質問攻めにされている気がしてムッとした。
だから聞き返したのだ。「初対面なのに、失礼だ。
あんた、だれ?」釣り男にこれは聞こえたらしく、すんなりと答えた。
「あぁ…流石に質問攻めは疲れるもんな。」
釣り男は僕を覗き込むように見下ろした。
「ディア、人間ではお前だけに教えてやるよ。
俺の名前はペデストリアンだよ。」朝は川に行ってはいけない――…
僕は夢でも観ているのだろうか。
あの、呪わしい歌の登場人物、ペデストリアンが通行人って意味じゃなくて、人の名前だって?
しかも今、「人間ではお前だけに」って言った?
この釣り男も化物か?
男は口に人差し指をつけて「秘密だ。この名前は好きじゃないんだ。」
男は眉を顰めて言った。
何が秘密なもんか。誰もそんな事まともに信じちゃくれないよ。僕はとても泣きたい気持ちになった。
だってそれじゃぁ僕は近いうちに「ぼく」に会って殺されちゃうんじゃないか―――――
20081108若干文章訂正
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