化 物 の 憂 鬱  
 ‐Depression of an apparition‐



夜は歩いてはいけない
ナァナァと鳴く化け猫に攫われてしまうから

朝は川へ行ってはいけない
ペデストリアンに攫われてしまうから

僕を見てはいけない
僕は君を殺してしまうから

―――――――――――――――――――――――――

その日も僕は夜に外を歩いていた。
友人の家でボードゲームに夢中になって暗くなったのに気が付かなかった。
今夜は新月だから本当に真っ暗。
星のお陰で道は見えるが少々不安。
友人の家から我が家まで1キロメートルとちょっと。約20分。
自分でも馬鹿馬鹿しいと思う癖だが、ゆっくりと星を数えながら家まで帰る。
いつもなら何も起こらず平和に家に着く。
でも今日は違った。
星の数が34個目の所で背後に気配を感じた。

「・・・?」

ゆっくり振り返る。
何も居ない。
しかし先ほどの進行方向から唐突に
ナァー…
猫の鳴き声だ。
向き直ると、2メートルほど前方に、やはり猫が居た。
大きな猫。
真っ白な毛の長い猫で、星の光だけなのに毛が銀色に光って綺麗だった。
まるで光のオーラをまとったような猫。
それが銀色の眼でこちらをじっと見ていた。
どこかの家の猫かなと思って、近づこうとしたのだが、

「夜に歩くなんていい度胸だな小僧…」

その猫が喋った。
と思ったので辺りを見回した。

「いやいや、俺喋ったから。無視せんといて。な?猫喋ってんで?びっくりやろ?」

嗚呼、猫が関西弁(?)を喋っている(気がする)。
僕もこんな歳になってまで星の数なんか考えてるせいで馬鹿になっちゃったんだろうか。
明日から朝は川には行けないなあ。
などと考えているとまた猫が鳴いた。

「無視せんといてって俺言っとんやで?何か反応してや。」

夢じゃないとしたらあの歌の通りじゃないか。
そうなるとこの猫は化け猫で、僕はこのあと攫われるのだろうか。

「…俺ってそんなに陰薄いんやろか…」

猫、基、化け猫が愚痴り始めた。
しかし反応しようにも今さら驚いても馬鹿っぽいと思う。
仕方がないので近寄って化け猫を撫でてみる。

「まぁ撫でられるのは嫌いやないけどぉ…」

毛ざわりは良い。サラサラしている。
この世の獣じゃないような、絹よりも細い毛。川のような手触り。

「っていうか兄ちゃんなんで夜に歩いてんねん…ええ度胸しとんなぁ?」

「―――――…」

僕はそのまま化け猫を撫で続ける。

「無視かい…あー、逆撫ではやめてなー。」

「…よるは、ぼくをよぶんだ」

「ナァ?」

「よるはぼくを、よぶんだ。
 …ぼくは、よるしか、すきなものはないんだ。
 どきょうなんかじゃ、なくて…よると、あさぐらいしかあるかないんだ。
 …たいようが、きらいなんだ。」

川のような手触りの猫は、銀色の眼で僕を見上げている。
縦長い月の爪のような瞳で、僕を見上げている。

「俺も太陽は嫌いや。兄ちゃん良い趣味しとるやなーい。」

猫に笑うことなんて出来ないはずなのに、猫はにんまり笑った。

「…でもみんなは、よるがきらいなんだ。
 だから、たいていみんなは、ぼくがきらいなんだ。
 だからよるはぼくしかいないんだ。
 …だから、いまはいえにかえって、あさまで、クラレとあそぶんだ。」

化け猫は僕の話を聞き終わると、再度にんまり。

「ふぅん。せやけど今は俺がおるから一人やないナァ…。 ま、俺化け猫やけど。ンナ事よりクラレって誰ぇ?」

「…やねうらにすんでるあかいハツカネズミだよ。」

化け猫はあからさまにニヤーっとした。
先ほどから化け猫はよく笑うが、はっきり言って不気味だ。

「じゃあ今度、お前の家にでも遊びに行ってやるよ。」

そう言うと化け猫は夜空を見渡した。

「今夜はきれいな新月だ。攫わないで居てやる。さっさと帰ってクラレと遊びな。」

そう言うと化け猫は闇の中に融けていった。

僕はまた星を数え始めた。
家には565個で着いた。
僕は何も言わずに家に入った。

「 オ カ エ リ 」

囁くように小さな声で、クラレが言った。

 


 20080722若干文章訂正

 


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